『剣崎比留子』シリーズの今村昌弘さんの新刊!
オカルト×ミステリ×ジュブナイルということで、好き要素しかない…! と、めちゃくちゃ楽しみにしておりました。
ではまずあらすじから。
小学校最後の夏休みが開けた学校初日。
2学期の係決めで、ユースケは掲示係に立候補する。
それは、自分のオカルト趣味を注ぎ込んだ壁新聞を作り、みんなに読んでもらおうと思ったからだったが、もう一人の女子の枠に、なぜか学級委員をやると思われていた波多野沙月(サツキ)が立候補。さらには、4月に転校してきた畑美奈(ミナ)も加わって、3人で係をやることになってしまう。
初めての係の話し合いで、オカルト記事は反対されるかもしれないと身構えていたユースケだったが、意外なことに、サツキの方から町の七不思議について調べてみないかと提案され、実際に調査に行くことになる。
心霊現象を信じないサツキが、なぜ七不思議を調べようと言い出したのか疑問に思ったユースケだったが、話すのを渋っていたサツキを問いただすと、その理由は去年亡くなったサツキの従姉・マリ姉にあることがわかる。
去年の祭りの日の前日に、祭りの会場である運動公園のグラウンドで殺されていたマリ姉。未だ犯人は捕まっておらず、捜査も進んでいない。
そんな中、サツキはマリ姉のPCに入っていた「奥郷町の七不思議」というファイルに手がかりがあるのではないかと考え、オカルトに詳しいユースケと同じ係になり、七不思議について調べようと思ったらしい。
あまりにも真剣で思いつめたようなサツキの様子に加え、一つ目の七不思議に実際に怪しい点が見つかったことで、ユースケは壁新聞のためだけでなく、サツキに協力するという意味でも七不思議について調べることを決意。
ユースケはオカルト賛成派の立場から、サツキは反対派の立場から、その怪談の真相、マリ姉の事件との関係を考察し、中立派のミナがどちらの意見により説得力があるかを判断。それを壁新聞に仕上げることが決まった。
七不思議で語られていることは真実なのか、それとも単なる作り話なのか?
マリ姉の死と七不思議には本当に関係があるのか?
3人の推理の行方は……。
――と、いうのがあらすじ。
ここから先はネタバレがあるので、知りたくないという方は要注意。
小学生が主人公なのでミステリー自体少し易しくなるか、七不思議もそんなに怖くないのかなとか思っていたんですが、そんなことはありませんでした。
七不思議一つ一つにしっかりぞわぞわさせられる上に、それぞれに仕掛けがあって、こんな風につながってくるなんて……と驚かされました。
過去の実際の出来事と怪談につながりがあるとか(まあ怪談って大抵そういうものだとは思いますが)、そういうの大好き。
たまに起きたことの時系列や彼らの推理が頭の中でこんがらがって、ページを行きつ戻りつしながら読むところもありましたが、「七不思議を順番に調べて推理する」という、やるべきことがはっきりしているのと、行動的な3人のおかげでテンポよく話が進むため、中だるみを感じることなく最初から最後まで楽しめました。
また、小学生の微妙な人間関係や気持ちの揺れ、大人への反発なども自然な感じで描かれていて、オカルトとミステリとジュブナイルが見事に融合、バランスの取れている作品だったなと。
ただ……
最後のページに違和感を感じたのは私だけ……?
すでに読了された方、どうですか?
違和感感じませんでした?
「好きだった」って何で過去形?
もうすぐ小学生の時間が終わるから?
なんで名前を書かずに「あとの二人」って書いたの?(別のとこでもそれぞれの名前を書かずに「二人」とまとめてるところはあったけど)
それ以前に、公園で待ち合わせをすることはあっても、滑り台の上で待ってる描写なんてこれまで一度もなかったよな……?
とか考えて。
え、これ本当にユースケ?
一人称は「おれ」なんだけども、空いた行間に挟まれたあの部分だけ、急にそれまでのユースケたちと違うように感じられて、「もしかしてユースケもう半分の御神体に乗っ取られちゃった?」とか考えたり…。
叙述トリックとかリドルストーリー、ノックスの十戒とか、ミステリに関するあれこれが作中でも説明されてたけど、そういうしかけが、私たち読者に対しても使われてるんじゃ?
とか。
思ったんだけども。
考えれば考えるほど頭がこんがらがってきて、それ以上突き詰めていく気力も推理力も私には足りませんでした。
でもさ。
<永遠の命研究所>に行ってから、ユースケ明らかに何かに憑かれた感じだったじゃない。
魔女の家に行って不調がなくなったとはあったけど、実はまだユースケは何かに憑かれたままで、憑かれたままだと考えると、作間は死んでるし御神体も焼けたんだから、その「何か」は行方不明のもう半分の御神体なんじゃないの? とか。
最後のページのユースケは、そいつに侵食されてるんじゃないの? とか。
でもそうなると、<永遠の命研究所>には元々行方不明だった半身がいたことになるし、そうならユースケに憑くんじゃなくて研究所に来た作間(邪神)のところに戻ってもよくない? って感じだし…。
それともユースケが見た影坊主は作間(邪神)とはまったく関係のない別物なのか、はたまた行方不明の半身ではなく、作間か作間が持っている御神体から滲み出た怨念とか思念体のようなもので、死後も消えていないのか? とか、いや実は作間、死んでないんじゃ? とか。
でもそもそも作間の体に邪神が宿ってるなら、作間が盗み出した(取り返した?)御神体って一体何なのよ、とか。人間の体は操れても、やっぱり御神体(元々の本体?)がないと力が発揮できないのか?とか……。
うーん……
やっぱり考えれば考えるほどこんがらがって、自分でも何言ってのるかよくわからなくなってくる。
あと、サツキが試みたライブ配信はどうなったの? という疑問もあるんですよね。
あの後配信については何も書かれてないけど、結局うまく映せてなかったということなのか、配信を見る人間がいなかったから世の中に大した影響もなかったということなのか、それともまったく触れられていないことに何か意味があるのか。
何でこんなにあれもこれも疑わしく思えてくるかっていうと、著者の今村さんがこの作品に添えていたメッセージが、
「この推理を、否定できますか?」
だったんですよね。
「否定できますか?」なんて、これは読者への挑戦状(=実はこの物語には彼らの推理を否定できるような別の解もあるんだよ)とも取れる気がして……。
――私の考えすぎ?
読んだ皆さん、どう感じたでしょうか?
すでにネットにレビューを上げている方の感想をいくつか見てみましたが、現時点では私が考えているようなことについて書いているものは見た限りなかったので、やっぱり私の勘違いというか考えすぎなんですかね。
うーん……。
まあ謎は残るにせよ、おもしろかったのは間違いないです(すべてを投げ出していきなりのまとめ)。
次は『剣崎比留子』シリーズの新刊か、それとも全く別の作品になるのかわかりませんが、いずれにせよ楽しみです。
ちなみに以前、同じく今村さんが書かれた『屍人荘の殺人』についても感想を書いてますので、お暇な方はどうぞ。
→『屍人荘の殺人』あらすじと感想