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『ブラザーズ・ブラジャー』

カバーイラストとタイトルのインパクト、そして帯に大好きな氷室冴子さんの名前を見つけて、思わず手に取った本。

読んだのは発売してすぐの頃で、これは紹介したいと思ってレビューもざっくり書いていたんですが、今日の今日まで眠っていました。ようやく出せたよ。

これはもうね、好き。

めちゃくちゃよかった。

以下あらすじ。

父の再婚で新しい母・瞳子さんと弟・晴彦と暮らすことになった高校一年生のちぐさ。
4人での生活がまだしっくりこない毎日を過ごしていたある日、ちぐさは晴彦がブラジャーを着けているところに遭遇する。

最近よく聞くようになったLGBTか、それとも思春期ゆえの暴走か。
戸惑うちぐさに、晴彦はただファッションとしてブラが好きなのだと説明する。

晴彦の言葉が本当なのかどうかもわからず、でも咄嗟に否定して傷つけてはいけないとも思い、その場をやりすごしたちぐさ。
けれど、一緒に買い物に行った日、ある言葉で晴彦を傷つけてしまい…。

キスより先に進みたいことがひしひしと伝わってくる彼氏、本当のことを言えないまま一緒にいる友達。
そこに自分の理解を超えた、ブラジャーが好きな弟という存在が加わったことで、ちぐさの日常に変化が訪れます。

この本を読んで私が一番に思ったことは、趣味や好きなことは人それぞれですが、それを堂々と公言できること、受け止めてくれる人がいることは、とても幸せなことなんだなあということでした。
これと似たようなことは、『その着せ替え人形は恋をする』の感想でも言ったような気がするけど。

折に触れて思うことではあるんですが、やっぱり自分が好きなことでも、その対象によっては人に言いにくいこともあるだろうし、そういうことを打ち明けられた時に、知った側がそれを受け入れられるか、応援できるかは人それぞれなんですよね。

でも受け入れたふりをして内心「変な人。意味わからん」と思われるよりは、面と向かって「変わってるね。自分には理解できんわ。でもあんたが好きならまあ…」くらいの距離感の人のほうがありがたいと思うのは私だけでしょうか。

だから理解してくれたり受け入れてくれるならそれに越したことはないですが、ただ「受け止める」=「弾き返したり叩き潰したりしない」だけで、かなり救われると思うんです。

まああくまで、私の考えですが。
これは後半の「ブラザーズ・ブルー」を読んだ時に強く感じました。

多様性を認め、受け入れるということはいいことだろうけど、実際はそんな、すんなり受け入れられる多様性ばかりじゃないはずで。

色んな人がいるというのは頭ではわかっていても、それに対する考え方や判断基準は人によって違うし、受け入れられる人も受け入れられない人もいるだろうし、逆に受け入れて欲しい人も受け入れて欲しくない(そっとしておいて欲しい)人もいると思うんですよね。

そう思う中でちぐさの晴彦への反応は、おそらく大多数の人がしそうな反応だと思うし、たぶん私も同じような場面に遭遇したら、とりあえずわかったふりをしてしまうんだろうなと思う。

でも相手を傷つけないようにと思ってそうした行動も、相手からしたら不快だったり傷ついたり、その場は何とかなっても、長く付き合えばいつかきっと何かの拍子に本心は露見するんだろうなと思ったり。まあ「とりあえず」の後に理解する可能性もありますが。

傷つけて、謝って、理解しようとして、それもまた違うような気がするとぐるぐるして。
ままならない気持ちをままならないままぶつけて、ほんの少し2人の間にある空気がやわらかくなる。
これが正しいという正解はなくて、結局はそれぞれの相手と自分がいいと思える付き合い方、距離感を探っていくしかない。

この小説のちぐさと晴彦は、そういう中のひとつの形だろうなと思いました。
そしてこの2人の関係が、私にとっては最高でした。

前半の「ブラザーズ・ブラジャー」まで読んだところでもうにやにやしてしまって、後半の「ブラザーズ・ブルー」も読むと、「ああこの2人、すごくいい姉弟になるんだろうなぁ」とあたたかい気持ちになりました。

少女漫画だと、親の再婚で新しくできた兄弟と一つ屋根の下で暮らすことになったら、必ず恋愛展開になりますが(そして少女漫画好きとしてはそういう設定も好きですが)、この作品は小説ながら少女漫画のような雰囲気、読みやすさもありつつ、きちんと(?)文芸作品だなと感じました。
青春と愛がまぶしい。

普段小説を読まない人(青春小説なので特に若い世代)にもぜひおすすめしたい1冊です。

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