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『屍人荘の殺人』

2023年8月現在、3作出ている「剣崎比留子」シリーズの記念すべき第一作目にして、数々の賞を受賞した著者のデビュー作。

つい先日、発売してすぐ買っていたのに、ず――――っと積読していた三作目の『兇人邸の殺人』をやっと読んで、「やっぱこのシリーズおもしろいな」と思ったので、とりあえず一作目の『屍人荘の殺人』の感想から。

この本を手に取ったきっかけは、カバーイラスト。
遠田志帆さん。
印象的な、きれいな瞳を描かれる方ですよね。
『another』や『竜宮ホテル』で見ていて、きれいだなーと思ってました。

ただ、タイトルが『屍人荘の殺人』。
なんか字面からしてほの暗いしグロそうだなぁ、と。
ちょっと迷いましたが、鮎川哲也賞受賞作だし、帯の絶賛コメントと「本格ミステリ」の文字を信じて、買うことにしました。

では、あらすじから。

神紅大学ミステリ愛好会に所属している葉村。といっても、会のメンバーは自分と、自分を誘った先輩・明智の2人だけ。
いつも事件に飢えている明智がここしばらく興味を持っているのは、曰くありげな映画研究部の夏合宿。すでに何度か同行を断られていたものの、同じ大学の剣崎比留子のはからいで、合宿に同行できることに。

ちなみに比留子は公にはしていないものの、これまで警察に協力し、いくつもの事件を解決に導いてきたという経歴を持っていて、明智は比留子に対して、ささやかなライバル心を持っている様子。

映研部員と共に〈紫湛荘〉にやって来た3人は、しょっぱなからメンバー間にただよう雰囲気の悪さを感じ取る。それでも映画を撮り、バーベーキューをし、夜は肝試しに出かけたが……。

そこでとんでもない事態に遭遇したメンバーは、〈紫湛荘〉に引き返し、立てこもりを余儀なくされる。さらに緊迫の一夜が明けると、メンバーの一人が惨殺死体となって発見され……。

というのが、物語の始まり。
ここから先はネタバレします。
(殺人事件の犯人は言いませんが、この物語を読んでてたぶん一番か二番に「えっっ!?」ってなる驚きポイントを話しますのでネタバレ嫌な方は読まないでね。)

まずは、あらすじで書いた「とんでもない事態」ですが、まじでとんでもないです。

ゾンビです。

「え……? ミステリーだよね?」

と、思った方、もう一度言います。

ゾンビです。

それでホラーじゃなくてミステリーなの?
と、一瞬笑いたくなるというか疑いたくなる設定ですが、読めば、ゾンビの存在がなけりゃそもそもこの話自体成り立たないということは、すぐ理解できると思います。

バイオテロによって、フェスに参加していた人々がゾンビ化し、その一部が葉村たちが合宿をしていた〈紫湛荘〉のあたりまでやってくる。
で、肝試しをしていた映研メンバーや葉村たちがゾンビに遭遇。〈紫湛荘〉に逃げ帰り、押し寄せてくるゾンビに周囲を囲まれ、立てこもりを余儀なくされるわけです。

その、立てこもる前、ゾンビに遭遇して〈紫湛荘〉に逃げ帰ってくるまでの時点で、早くも何人かが犠牲になるんですが、そこでまたとんでもない展開が。

なんと、物語の探偵役になるであろうと思われていた明智が、早々に退場。

つまり、ゾンビにやられてしまいます。

「えー!? 明智死ぬんかいな!」
と、思わず突っこみましたよね。
まだ殺人事件起こってないがな。

半分くらいまでは、「実はまだどうにかして生き残ってるんじゃ…」と疑ったりもしましたが、そんなこともなく。
〈ちょっと迷惑だけど憎めない先輩〉っていう愛されキャラで好感を持ちつつあったのに。
さよなら明智先輩……。

でも、物語はまだまだ始まったばかり。
これでクローズドサークルのできあがりです。
断崖絶壁の孤島とか、台風で道が寸断されたとかじゃなく、バイオテロで発生したゾンビによって出来上がったこの舞台。
斬新過ぎる……。

しかしこのゾンビ、ただ舞台をつくるためだけに出てきたわけじゃないんです。
その後建物内で起こる殺人事件も、彼らの存在なしには成り立ちません。
なぜなら〈紫湛荘〉に立てこもったメンバーが翌朝見つけた死体。それはどう見ても、ゾンビに「喰われた」死体だったからです。

すでに建物内にゾンビが入り込んでいたのか?
それとも誰かが引き入れたのか?
はたまたゾンビの仕業に見せかけて、犯人はメンバーの誰かなのか?

この、ミステリーとパニックホラーの共存というか、最初は奇抜だと思っていた設定がうまく溶け合って一つの物語ができている感じがすごいなあと思いました。

ちなみに私はミステリマニアでもないし、特に頭の回転がいいわけでもないので、推理に関してはひたすら「へー」「なるほどー」「あ、そういうことかぁ」と、明かされたものに対してただ感心するという読み方です(笑)
唯一エレベーターのトリックは、種明かしの前に「もしかして…?」と気付けましたが。

ただ一つ気になったことを挙げるとすれば、登場人物みんな肝が据わりすぎだろ、とは思いました(笑)
ゾンビがひたすら扉を叩いている横で、よく一人で部屋に寝てられるなと。
ドアが軋んでもうすぐ破られそうだってのに、よく殺害現場の検証ができるなと。

まあ、もしみんながみんな怖いって言ってひと塊になってたり、すぐに現場を放棄したら、殺人事件も起こらないし謎も解けないからミステリーになりませんが。
ということは、そういうとこには目をつむるべきなんでしょう。
いやでも、怖いだろ……。

まあ、そこらへんは一旦置いておいて。
殺人は一度では終わらず、翌日の朝にはもう一つ死体が増えます。
早々に明智が死んでしまったので、事件を推理するのは比留子です。葉村はその助手といった感じ。
なかなか可愛らしい、好感の持てる2人です。

最後には犯人も明かされ、比留子たちは救助のヘリによって屋敷からも救出されます。

おもしろかった。すごく。

死体の有様はひどいしゾンビも決して得意ではないけど。
おもしろかったです。

このシリーズ一作目を読んだ時は、「これはシリーズ化するのか? でも〈ゾンビ×密室〉という今作のインパクトが強すぎて、今後これを越える衝撃を与える作品を考えるのはなかなか難しいんじゃないか…?」とか思ったものですが…。

はい。いらぬ心配でした。

二作目も三作目もおもしろいです。

プロフィールにも書いている通り、私の好物は主に恋愛漫画とファンタジーなんですが、たまにクローズドサークルものとか、王道の推理小説が読みたくなる時があります。
こういう作品に出会うからだろうなあ。
すごいですよねえ、こういう設定やトリック、どうやったら思いつくんだろうか。
ただただ感心するばかりです。

時間に余裕があれば、シリーズの他の作品のあらすじや感想もまた紹介したいと思います。
紹介したい本が多すぎて時間が足りない。

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