2023年も半分以上が過ぎましたが、今のところ今年読んだ本の中で、私の中でベスト3に入っている本です。
椹野道流さんの『祖母姫、ロンドンへ行く!』。
以下あらすじ。
正月の親戚の集まりで、著者がイギリスに留学した時の思い出話を披露した時、祖母がぽろっとこぼした言葉。
「一度でいいからロンドンに行ってみたい。お姫様のような旅をしたい」
当時すでに80歳を超えていた祖母。もう最後のチャンスになるかもしれないと、祖母の願いを叶えるために、親族総出の支援が決定。あれよあれよという間に、著者と祖母の二人で、五泊七日の豪華イギリス旅行をすることに…。
ということでこちら、小説ではなくエッセイ(ノンフィクション)です。
普段エッセイはあまり読まないんですが、この本は帯にあった辻村深月さんのコメントに惹かれました。
「椹野さんは、私にとって憧れの女性です。」
辻村さんは好きな作家の一人なので、その辻村さんが憧れる女性ってどんな人なんだろう、と思ったのが手に取ったきっかけだったと思います。
椹野さんの名前は存じ上げてましたが、著作を読んだことはなかったので。
でもほんと、その時買った自分を褒めたい。
よく手に取った!レジに持って行った!
読み終わった今はそう思うくらい、好きになった本です。
疲れやすく昼寝は必須、これと決めたら譲らない、著者とは真反対のメンタル強者のおばあ様。
最初はおばあ様に振り回される著者に「わあ、これは大変かも…」と若干同情しながら読んでいましたが、旅の後半、その自信の源を知る頃には、すっかりおばあ様のファンになってしまいました。
おばあ様の言葉が刺さる刺さる…。
そして、行く先々で二人が出会うスタッフの方々がとにかくプロフェッショナル!
CA、ホテルのスタッフ、デパートの店員の方々など、著者の不安をやわらげ、おばあ様の希望を叶えようと力を尽くす様に感動します。
特に、ホテルで著者とおばあ様の担当になったバトラー・ティム。
彼が素敵すぎて……!!
え、これほんとに実話? ティムって実在するの?
と思うくらい、読めば男女問わず彼に惚れてしまうのではと思うほど素敵でもう、私はティムの虜ですよ。
いわゆる「イケメン」を表す言葉は色々ありますが、「イケメン」でも「ナイスガイ」でも「ハンサム」でもなく、「いい男」とか「かっこいい」も何となく違う気がするし、何かほんともう、魅力的というか「素敵」なんです。
バトラーという職務上、お客様(=著者とおばあ様)に尽くすのは当然なんですが(何せ彼が勤めているのは五つ星ホテル)、その絶妙な距離感やお茶目さ、気遣い、親しみやすいだけじゃなく頼もしいなんて、最高じゃないですか。
私だったら絶対に勘違いして恋に落ちるわ……!
と思いました。
あと、私が聞く(読む)度ににやにやしちゃうのが、「バッド・ガール」。
留学していたことがあり英語もペラペラな著者は、おばあ様が寝入った夜、旧友に会いに出かけるんですね。昼間はおばあ様の手足となって秘書役に徹している著者が、夜になると服を着替えて街に出かけていく。
そんな著者のことを、ホテルのドアマンやティムは親しみを込めて「バッド・ガール」って呼ぶんですよ。
いやー、聞いててこんなにもにやにやしちゃう「バッド・ガール」ある?
実際の声は聞こえないけど、その声音や表情が想像できて、ホテルのスタッフと著者との絶妙な距離感が何とも言えず心地よくて。
私も呼ばれてみたいけど、夜は怖くて出歩かないだろうから、呼ばれる機会は永遠に来ないだろうな(笑)
さて。
行き帰りの飛行機はファーストクラス、大英博物館にロンドン塔、ハロッズ、オリエント急行にアフタヌーンティーなど……おばあ様の体調を気にしつつ予定を消化、時に気まぐれな指令に焦ったり、夜には友人たちとの旧交を温めたり。
盛りだくさんな五泊七日は何とか無事に幕を閉じます。
我が道を行くおばあ様=「祖母姫」、そんなおばあ様に振り回されつつ秘書役に奮闘した著者、二人の旅をサポートしてくれたプロフェッショナル達。
旅行記としてとても楽しかったのはもちろんなのですが、それと同じくらいこの本が好きになった理由は、やっぱりおばあ様の言葉の数々。
特に帰る直前の、空港ラウンジ内のトイレでの著者との会話は、多くの人の心に響くんじゃないでしょうか。
私にはもろに響きました。
そしてこの本を読んでから、著者の椹野さん自身にも興味を抱きました。
医者で小説家って、「バッド・ガール」どころか「スーパー・ガール」やないかい…!
椹野さんとはこの本で初めましてだったんですが、すごく読みやすかったので小説も読んでみたいなと思いました。