さてこちら、タイトルにはまったく入っていませんが、『2.43 清陰高校男子バレー部』のスピンオフ的なものです。
『2.43』ファンなら、というか三村統ファンなら、読むべき1冊だと思います。
なんて言うと統が主人公の話があるみたいですが、ありません。
ないんですが、私がこの本を読んで真っ先に思ったことが、
「やっぱ統、かっこええなぁ」
だったからです。
『2.43』の感想でも、統と越智の絆というかやりとりにボロ泣きしたと書きましたが(その記事→『2.43 清陰高校男子バレー部』)、三村統、やっぱ人間がかっこいいわ。
今回のバレー部の話でのメインは統ではなく潤五でしたが、統の存在感はやっぱすごい。
さて、タイトルに「福蜂工業運動部」とありますが、福蜂工業以外の運動部も出てきます。運動部じゃない人も出てきます。
「強者の同盟」は、福蜂バレー部潤五と、中学が一緒で今は尋慶女子テニス部の梓。
「空への助走」は、明日岡高校陸上部の涼佳と柳町。
「途中下車の海」は、福蜂柔道部の長谷と釣り部の平政。
それぞれ彼らがメインで話が進んでいきます。短編集ですね。
最後の「桜のエール」は、エピローグ的な感じでみんなが勢揃い。
若干ネタバレしつつ順番に感想を述べていきますね。
「強者の同盟」では、中学の時エースアタッカーだった潤五が、センターへのコンバートを宣告されます。
三村統という絶対的エースの存在が潤五を追い込んだわけですが、最初もやもやしつつも、結局は自分をそこへと追い込んだ統の言葉で吹っ切れるんですよね。
「おれと潤五が前衛んときが、一番強いローテになる」
そんなこと言われたら、「よっしゃここでいっちょかますか」って気分になるよねー。
劣等感を抱きつつも、統の才能、能力への尊敬はもちろん持ってたわけですから。
吹っ切れた潤五は、さらに強くなりますね。
そして福蜂バレー部も、もっと強くなりますね。
ヒエラルキー上位の梓の言動には若干引くというか、反発を覚えるものもありましたが、それでも梓には梓なりの芯が1本あるというのはわかるので、きっと現実にいたら仲良くはならないだろうけど、ある意味一目置く存在にはなるんだろうなと思いました。
でも、「強者の同盟」というのは怖いですね。強いうちはいいけど、弱くなればはずされる。もちろん、毎日毎日それを意識しているわけでもないだろうし、それがあるから頑張れる、それを誇りに思う、という部分もあるとは思うんですが、それだけの意味ではない、何か「共犯者」というような印象も持ちました。梓のキャラクターゆえですかね。
で、「強者の同盟」では梓の若干の毒や潤五の苦さがあったからか、次の「空への助走」は、読んでてなんかほっこりしました。
卒業した拓海先輩に憧れている涼佳と、ひとつ下で涼佳に好意を寄せる柳町。
ちゃらちゃらというか、やる気なさそうで若干情けなかった柳町が、涼佳には正面から当たっていき、振り向いてもらうために拓海の跳び方(走り高跳び)を研究し、成長して、そのうち競技自体の魅力に惹き付けられていく様子がとても自然で、好感が持てました。
拓海先輩も、案外「普通の人」だったし。いい意味で。
完璧爽やか王子でもそれはそれでいいんだけど、優柔不断なとことか、しれっと柳町だましてたとことか、後半になるにつれ、ちょいちょい荒島拓海って人の人間っぽいとこが見えてきて、何かよかった。
最後、柳町が涼佳に告白するシーンが好きです。
「はい!」って言った涼佳の笑顔が、目に浮かぶ。
いいなぁ、青春だなぁ。
あと、高飛びの順位の決め方が興味深いなと思いました。
「途中下車の海」は、顧問との衝突がきっかけで、部活をさぼってクラスメイトの平政と釣りをする柔道部の主将・長谷が主人公。
前のふたつと比べると、正直読後の印象はぼんやりとしております。あくまで個人的な感想ですが。すいません。
長谷が部活をさぼるきっかけが、確かに長谷にとっては我慢ならないことであるというのはわかるんですが、なんとなく、その後の長谷の様子を見ていると、「怒っている」とか、「我慢ならない」というよりは、ただ「いじけている」ような印象を持ったからでしょうか。
増と古賀に関しては、結局そこ、くっつくのかよ、と若干つっこんでしまいました(笑)
最後の「桜のエール」。
これもなんとなく、「強者の同盟」ですよね。
これまで出てきたバレー部、陸上部、柔道部が出会って、誓いを立てる。
桜の中の静かなる闘志。
かっこええわー。
「空への助走」でちょろっと出てきてた蓮川が、ここで初めて言葉を発してましたが、こいつもまたいい男だった。
あと、触れてなかったけど、はっちもかっこいいです。「はっち」。女の子ね。写真撮る子です。
自分の好きなことをわかってる。誇りを持ってる。梓にも怯まず、自分の考えを曲げなかった子。
――はい。というわけで。
あらすじというか感想の走り書きのようになってしまいました。読みにくかったらすいません。
ちなみに、こちらより先に<春高編>の感想をあげましたが、刊行順としては『2.43』→<second season(代表決定戦)>→『空への助走』→<春高編>です。
読む順番は特別気にする必要はないと思いますが、中身の時系列でいくと統が三年になったところで話が終わるので、<second season(代表決定戦)>の前に読むのでもいいのかもしれませんね。
ただ、これを読むと福蜂をさらに応援したくなるので、清陰頑張って…!でも福蜂にも負けて欲しくない…!というジレンマが強くなることが予想されます(笑)
ちなみに記事頭に貼ってる画像は発売時のカバーデザイン。
現在はもう文庫版が発売になってて、文庫は↓のデザインに変わってます。