これねー……、大好き。
『赤髪の白雪姫』のあきづき空太さんの短編集です。
初めて読んだのはもう十年くらい前だと思いますが、それ以来何度も読み返している漫画の一つです。
短編集にここまでがっちりハート掴まれることはなかなかないですよ。
収録されているのは、
「ヴァーリアの花婿」
「龍の守唄」
「銀世界の証明」
「おとぎばなしの筆」
の4編。
これがねー、もう、全部いい。
短編集で収録作全部いいってなかなかないですよ。
ちょいとネタばれもありますんで知りたくないわって人は先にマンガ読んでくださいね。
まず「ヴァーリアの花婿」。
これなぜか私、いっつも「ヴァーリアの花嫁」って言っちゃうんですよね。
人に勧める時も「『ヴァ―リアの花嫁』いいよ!」って言った後で、貸そうと本棚から出して見る度に「あ、違った、花婿だった」って記憶を正すんですが、いつの間にかまた「花嫁」に戻るんですよ。何故だ。
まあそんな話はどうでもいいとして。
小さい頃にカルセド家のジルと許婚になったヴァーリア。
年は離れていたもののそれなりにジルを慕っていたヴァーリアですが、ジルは突然行方知れずに。
その数年後、婚儀を挙げるはずの年になってもジルが戻ってこないため、ヴァーリアはジルの弟であるルセルと許婚になります。
しかし納得のいかないヴァーリアは、ジルを探しに行くことに……。
ヴァーリアが「何に」納得がいっていないのかが、この話のミソですかね。
自分から動く女の子、好きです。
そしてそれに黙って付き添うルセル。
いわば「おさがりの許婚」関係であるがゆえの、微妙な距離。
ヴァーリアもルセルも、思うことはあっても口には出せないんですよね……。
もどかしいというか、ちょっと切ない。
だからそれを打破しようとするヴァーリアの行動はすごく好感が持てます。
そして行方くらましてた兄ちゃんも何だかんだ結局憎めないキャラです。
ルセルと話した最後、ヴァーリアがぽろりとこぼした本音にうるっときます。
これをずっと、心の奥に閉まってたんだなあ。
吐き出したくて、でもずっと我慢してたんだなあ。
言いながら、きっと声は震えてるんだろうなあ。
……とか考えたら、もう私がヴァーリアのことぎゅぅーーーーってしたくなりました。
感情移入しすぎ?
あとこの話、服とか髪飾りのデザインがかわいいです。
ブルガリアをモデルにしてるらしいです。
2番目は「龍の守唄」。
甲乙つけがたいですが、私は4つの話の中でこれが1番好きかなあ……。
というか、これが一番泣いた。
いつか空に帰ってしまう龍の子・キトと、龍を送る時祝詞を上げる(唄を歌う)役目を持つ巫女・シュエンの話です。
最初はシュエン不細工だなと思って読み始めたんですが(←ひどい)、次第に可愛く思えてきて、たった1コマの回想からも2人の絆が伝わってきて、泣き虫のシュエンも成長して、でもやっぱり我慢してて、キトを送った直後シュエンが堰切ったように泣き出したところで、私の涙腺も崩壊。何回読んでも泣く。
天龍になった後も記憶は残るのかうんぬんの話がありますが、私的に、天龍となったキトがこの先もずっと覚えているのは、きっとシュエンがキトのことを呼ぶ声だと思うんですよね。
「キト! キト!」
っていう。
とか考えてるとまたしんみりしてきちゃう……。
お世話係である神官さんもいいキャラしてます。
3番目、「銀世界の証明」。
町から離れた雪の中の塔で暮らすアルザは、ある日雪の中で倒れていたリアという女の子を拾います。
リアは魔法を使える魔導種。しかしアルザは魔法が大っ嫌い。
すぐに魔法を使うリアのことを、アルザはよく思いません。
しかしもちろんそれには理由があるわけで……。
星座のシーンが好きです。あと最後の締め方も。
丸々1ページ使った、
「どうだ きれいだろう」
っていう最後のシーン。
うん、きれい。
それだけで綺麗。
最後は「おとぎばなしの筆」ですね。
舞台は渇いた荒野にぽつりと現れる緑豊かな土地。
この土地が豊かなのは、大昔の村長がかつて水の神と契約し、その神が宿るご神木を守っているから。
現村長の弟である湧渓は、そのご神木に書かれた、日々薄くなる契約の陣を書きなぞるのが役目です。
ある日湧渓は、ご神木の中の水の神と会い、言葉を交わすうち、彼女に親しみを覚えていきますが…。
それまで信じてたものが途中で引っくり返るパターンの話ですね。
でかい筆で陣を書くとか、真実がわかってからの湧渓の行動とか、少年マンガでもいけそうな感じがします。
というわけで、全4編。
素敵な短編集です。
『赤髪の白雪姫』が好きな人はもちろん、ファンタジーが好きな人は、ひとつくらいは気に入る話があるんじゃないかと思います。
絵も繊細できれいだし。
おすすめです。